琉球王国衰亡史(嶋 津与志 著)平凡社ライブラリー

 平凡社ライブラリーはデザインもよく、大きさも手頃で、お気に入りの本がいろいろあります。値段はやや痛めですが、専門書の馬鹿みたいな値段に比べれば、まあどうと言うこともありますまい。
 私の尊敬する網野善彦先生も著書を何冊かここから出されています。エポックメイキングな書「無縁・公界・楽」もここから再版されています。

 さて、この「琉球王国衰亡史」なのですが、小説です。
 牧志朝忠という一人の琉球士族の運命の謎を解く形で、幕末の日本氏を沖縄(琉球)から照射する野心作と言えばよろしいでしょうか。

 この本は沖縄モノの中ではかなりのお気に入りで、5回以上繰り返し読みました。何しろ、劇的な筋で、薩摩、琉球、諸外国の野心的な人物が相互に入り交じり、激動を闘うというスリリングさと、滅び行く琉球王国の運命を進んで行くのが刺激的です。はっきり言って適当なライトノベルよりもドキドキわくわく度が高く、内容は熱血で一気にもって行かれます。それでいて、「資料への密着」も忘れない深い本です。
 
 著者は、ト書きによれば、沖縄県庁の文化課長、県立博物館長さんだそうです。現在はどうやら退職されたようで、NPO法人 沖縄県芸術文化振興協会の代表をされています。
 沖縄には、単に書くことを名聞や飯の種にしない良質のアマチュアリテレイトがいっぱい居るので侮れません。

 この本と合わせて読むといいなと思うのは、押しも押されぬ大御所、伊波普猷氏の「沖縄歴史物語」でしょう。同じく平凡社ライブラリーででているのですが、琉球史全体の広い視野が得られます。この本もなんだか5回以上繰り返し読んでいる気がします。この本を押さえておくと「琉球王国衰亡史」がより面白く読めることは請け合いです。
 
 固有の文化と社会をもつ琉球王国が薩摩の侵攻と支配を受け、解体して行く中で何を得て何を失って行くか、もの悲しさの中に、一抹の希望があり、そして恐ろしいのが、かつての本音と建て前を相手によって使い分け続けた琉球王国は敗戦からこのかたの日本そのものの影絵のように見えることでしょう。

 娯楽としても、何かを考えるための本としても、実によくできた本で、未だにてばなせない私の愛読書です。


琉球王国衰亡史 (平凡社ライブラリー (201))

琉球王国衰亡史 (平凡社ライブラリー (201))

 

 

沖縄歴史物語―日本の縮図 (平凡社ライブラリー)

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