これならわかる 日本の領土紛争

 

これならわかる日本の領土紛争―国際法と現実政治から学ぶ

これならわかる日本の領土紛争―国際法と現実政治から学ぶ

 松竹伸幸氏はかつて日本共産党の国会議員候補を務めた人物です。超左翼おじさんの挑戦、という少しユーモラスな名前のブログを主催している。思想の違いを超えて、面白い内容なので、ご一読をおすすめします。
 かつては議員秘書をされていたはずですが、今は日本平和学会の理事さんで、出版社の所長さんをされているそうです。

ブログ 超左翼おじさんの挑戦 
http://chousayoku.blog100.fc2.com/

 さて、日本共産党、と書くと、何やら色がつきますが、政治思想というものは、隠すと隠さざるとにかかわらず必ず色がありますので、そこはあまり気にしないで読むもよし、気にして読むもよしだと思います。
 著者は、外交・軍事政策の立案にあたってはかなり柔軟で、自衛隊問題で党内議論を起こしたこともあります。

 この本を私が購入した理由は、冷静でリベラルな領土論を初歩から踏まえたいという動機と、松竹氏の旺盛な著述活動にそれなりの興味があったからです。
 楽天ブックスで購入しました。便利ですね。こういうあまり並んでなさそうな本も家にいながらぱっと手に入ります。

 内容ですが、竹島東シナ海ガス田、尖閣諸島北方領土といった、日本の領土紛争を「国際法と現実政治から学ぶ」形式です。
 初心者用の本なので、読書人なら2時間はかからない分量です。もっと早く読めてしまうと思います。

 ネタバレとかはない性質の本ですから、著者の出している見解を要約すると、

 竹島:結論を出すには一番の難題だが、日本にやや有利。
 東シナ海ガス田:国際法上日本は不利。だが、中国は一般のイメージと異なり日本有利な合意を進めた。
 尖閣諸島国際法上は問題なく日本領。問題は中国の国際政治上の迷いが透けて視える部分。
 北方領土国際法上はサンフランシスコ平和条約での千島放棄が焦点になるが、カイロ宣言の領土不拡大原則を破っている旧ソ連の瑕疵も大きい。ただし実効支配60年は重い。

 といった感じです。

 竹島の部分だけでも、勉強になります。先占原則が国際法として機能し始めたのは帝国主義時代の事情で、現在はそうは行かないこと、韓国の植民地被支配の歴史をどう評価するかが焦点となると同時に、サンフランシスコ条約上、竹島が放棄されていないのに韓国が軍事支配をしたのはどうしても正当化できないなどが語られています。

 著者は、領土問題を実益から考え、ナショナリズム的な原則論といったん切り離すことを主張しています。理由は簡単で、それでは軍事的な衝突を含む国際紛争に最終的には至るからです。
 原則を双方が取り下げず、いかに双方が利をとれる解を得るかが領土紛争解決の肝だというわけです。これはたしかに明快で、見るべき見解でしょう。
 実際は双方の政府は国民からナショナリズム的突き上げを受けるわけですし、そうはうまくはいくまいという面もありますが。
 竹島の問題も、日本側は、あくまで漁業権問題を焦点に置くべきであるというのはなるほどと思いました。

 東シナ海ガス田問題の中国の譲歩は、結局相益がポイントで、中国の発展と国際的地位確立を急ぐ現実にも、軍拡と同時に見るべきで、前者を伸ばしてゆくことが日本外交の肝だというのはなるほど見るべき見解だと思います。
 たしかに中国をアメリカ的な新超大国にさせないことは重要です。抑えこむということではなく(そんなことは軍事的には難しい)、国際社会の現実がもうそれを求めていない点に着目すべきであるわけです。

 北方領土解決の困難性は、冷戦時の問題継続がアメリカからも望まれていた点、ロシアが、経済的実力をつけ、日本との相益の動機が薄れている点が問題の難しさを際立たせている点は、原則的ですが再確認できました。

 領土対立国=敵、左翼=売国とか右翼=排外みたいな単純な決め付けではない読み方をしたほうがいい本だと思います。相手の国にも人がいて、経済があり、という当たり前の点が大切なわけです。

 あとがきに、この本のかかれた動機の一端が透ける文がありました。著者が尊敬している高名な国際法学者と学習会で歓談した時の言葉だそうです。

 「アメリカが戦争をしかけたとして、私には、それが違法な侵略だと証明することも、あるいは合法であっても侵略ではないと証明することも、両方が可能です。それが国際法というものの現実です。」

 違う民族、違う言語の諸国民がひとつの国際社会と隣接する領土・領海・領空を接する難しさが集約されていて、スローガンだけでは解決できない事がよく分かる言だと思います。

 昔みたいに、夷狄は膺懲だとは行かないんですから。