籤引き将軍足利義教

 今谷明氏の本です。
 氏の本といえば、「室町の王権」を大学時代読み、かなりの衝撃をうけました。
 何しろ、足利義満が「簒奪」を企てていた、と言う衝撃的な内容だったからです。氏の主張の根幹である、歴史はまずは政治史、と言う部分には割り切れなさを感じたものの、義満の企てがどのようなスキームで進められて、もくろみの根拠がどのあたりにあるのかが、薄皮を剥ぐが如くつるりと現れるのには、ある意味舌を巻きました。これはすごい、と。
 そんな思いをしてからおよそ8年ほどあとの読書体験である。友人に勧められ古本で購入。
 「籤引き将軍足利義教」は、コピペで書いたからよかったものの、籤という字が一発で変換されるにもかかわらず、私の軟弱なATOKでは一発で出てこないかわいそうな将軍なのだ。
 義教は義満の子なのだが、跡継ぎにはなれなかったので、出家して足利家の聖界支配の足がかりとなるべく青蓮院門跡として比叡山に乗り込み、天台座主・准后と言う高い地位を占めた。
 しかし、彼は兄の4代将軍義持の死に当たって跡継ぎの指名がなかったため、前代未聞の籤引きで将軍に選ばれてしまう。
 内容は前半と後半で義教の選ばれ方の詳細とその政治の内容が描かれ、中盤は籤引きの政治史における位置が記されている。
 「室町の王権」の緻密さと熱さはやや失われ、枯れた感じを受ける。今谷氏は決して水を漏らさない論理の人ではないのもよく分る。彼は現象を追って行き問わず語りに自分の言いたいことを語らせて「ほれみたことか」とやるのがすごくうまいのだが、今回は少し籤引きで選ばれたこととと、義教の来し方の接続がうまく行っていない感がある。もう少し、義教の時代の政治史が厚い方がいい感じがした。
 ただし、内容は極めて面白い。籤で選ばれて最高権力者になると言うことがいかに魅力的で危険かが描かれている。
 ちなみに義教の最後は、暗殺である。苛烈な政治に反発の故である。
 

籤引き将軍足利義教 (講談社選書メチエ)

籤引き将軍足利義教 (講談社選書メチエ)

 
室町の王権―足利義満の王権簒奪計画 (中公新書)

室町の王権―足利義満の王権簒奪計画 (中公新書)