びんぼう自慢

 古今亭志ん生師匠の落語を聞いて、読みたくなって買いました。
 ちくま文庫
 筑摩書房って、何げに落語関係に力入れてますね。古書の検索とかでよく名前が出てきます。

 落語は私は素人です。笑点をみて笑ったり、その程度です。寄席に行って、高座を直接みたことはありません。

 しかし、妻が何げに落語好きで、私が昨今体調不良で気がふさいできたときに、落語のCDを借りてきました。別に嫌いでもないので、聞いていたら、何とまあ、おもしろいと言うか。「あったかいお茶」みたいな笑いですね。ちまたの芸人は無理に笑わせようとするのですが、落語というのは心を柔らかくして、無理なく笑わせてくれる感じです。

 とりわけ、志ん生師匠の音源をいくつか聞いたら、これがおもしろい。こんなおもしろいしゃべりがあっていいのか、と思う位おもしろい。動きの激しい笑いのようで、実は、外連にも毒にも頼っていない。真正面の「おもしろさ」。とにかく、話しの内容と表現の仕方だけのおもしろさ。しかし、話自体は、ボッとしたものではなく、人間の業や至らなさを真正面からつくもの。ううん、落語恐るべし、と鈍い頭で寝床で「寝床」を聞きながら、amazon志ん生師匠の自伝などを何冊か頼んだうちの一つ。

 「なめくじ艦隊」と「びんぼう自慢」をよみましたが、ともにちくま文庫です。
 ともに聞き取りです。
 「なめくじ艦隊」はお弟子の師匠がものしたもので、「びんぼう自慢」は落語研究の大家
でもある小島貞二氏の「代筆」で記されました。相互に内容はよく似ていますが細かい相違があります。

 さて、志ん生師匠は旗本の家に生まれましたが、放蕩児として家を飛び出し、落語家を志しますが芽が出ません。名前も十数回変え、夜逃げもし、家賃がタダでいいよと言われた業平(東京都墨田区押上)の長屋に越しますが、「タダよりなんとやら」で、湿気いっぱいのなめくじ屋敷だった顛末が落語ファンには膾炙しています。私は素人だったので読んで唖然、そして、「ふはっ」、としたいい笑いが出ました。なめくじが「歌う」と言う珍談も披露されています。(本当か?)

 新内節岡本文弥さんが「なめくじと志ん生」という新内を新作したものが、本書には収録されています。これが、師匠が「ほろりとして妻と聞いた」と言っていますが、しんみり来るいい内容です。長屋でなじみだったなめくじたちが、立身した師匠を訪ねてきて、様子を眺めて、そっと帰って行くと言う筋です。

 師匠は貧困を「味わうもの」と言いました。これは、恐ろしくも深い悟りだなあ、と感じ入りました。

 落語集も注文しました。音源でしか追えないのが残念ですが、ほかの師匠連のおもしろい落語も楽しみにしつつ、志ん生師匠の落語をじっくり聞くのを趣味にしようと思いました。それで、何だか生きることの「無意味さ」のかなりの部分が「よい味わいの意味の無さ」に変わりそうです。

びんぼう自慢 (ちくま文庫)

びんぼう自慢 (ちくま文庫)

 「なめくじ艦隊」はイラストだけでも見る価値があります(笑)
 なめくじなのに、何だか憎めない愛らしさ。

なめくじ艦隊―志ん生半生記 (ちくま文庫)

なめくじ艦隊―志ん生半生記 (ちくま文庫)


 長女の美濃部美津子さんの著書です。
 あたたかでわかりやすいいい本でした。

三人噺 志ん生・馬生・志ん朝 (文春文庫)

三人噺 志ん生・馬生・志ん朝 (文春文庫)