砕かれた神

 岩波現代文庫です。元は朝日新書に入っていたのが絶版になり、岩波現代文庫に移りました。
 
 この本は出征した少年兵が帰郷し、苦しい戦後を生きて行く中で天皇制に疑問を抱き、主体的に考え行動することは何かを学んで行き、人生を選択して行くという内容です。
 
 著者の中の「天皇陛下」を「天皇」に変えたのはこの写真です。みなさんよくご存じの。
 
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d4/Macarthur_hirohito.jpg 
 
 著者は天皇制を疑いつつ、天皇の戦争責任を考えつつ、地域で農作業をしながら、日本人がいきなり「アメリカ」になびき、供出の食料を惜しんで私しようとし、命がけで闘った戦死者を馬鹿にするようになり、戦前「八紘一宇」とか言っていた田舎インテリが残らず民主主義賛歌を歌い出す事をこそ討つのです。
 そして自分で考えることの必要性に目覚めます。

 「砕かれた神」が天皇であることは分りやすいのですが、「天皇を崇拝していた自身」も砕かれていることがよく分ります。
 
 「彼」は青年なのでともに闘い死んだ仲間が天から見ているのに、自分だけ初恋に悶えたりしていることに罪の意識を持ったりもします。天皇と国のために捧げようとした「清い体」の観念が彼を苦しめます。
 
 私は、「純粋に生きる」とは何かをこの本から感じます。
 著者はまじめな人です。
 この本を読むたびに(私は3読目)「まじめに生きていない自分」がイヤになります。
 でも、欺瞞に組みしない自分でありたいと強く思います。
 
 著者は戦後わだつみ会の事務局長をして、戦死者と向かい合って「落とし前」をつけました。

砕かれた神―ある復員兵の手記 (岩波現代文庫)

砕かれた神―ある復員兵の手記 (岩波現代文庫)