イエメン もうひとつのアラビア

 私の愛読書です。たぶん古本屋で手に入れたと思うのですが、もう忘れました。
 確か、ブックオフか何かで「あれ、よさそうだぞ?」と立ち止まってぱらぱらめくり、「これは・・・!」と思って家で読んではまったと言うパターンだった気がします。

 確認してみると、私の持っているのは1994年3月10日第2刷です。もう11年以上前の本になります。
   
 私はこの本を何度読み返したかわからないくらい読み返しました。自分でも理由はよく分かりません。でも落ち着いたときも取り乱したときも、悲しいときも楽しいときも、どんなときもこの本は自分を「豊かにしてくれる」感じがあります。それがイエメンの人々の生活やその歴史や地理、著者の姿勢のどの部分にあるかは、自分でもはっきりとはわからないのですが。
 
 この本は「地誌」の本です。図面が多用されていれば「地理学的地誌」の本といえるでしょうが、そこまではいえません。しかし、その視点はあくまで備わっていると言えるでしょう。

 首都サナアの歴史を振り返りつつ、イエメン人のたくさんの地方での生活や、イスラムの風習、そして現代においてはいわゆる「最貧国」でありながら、伝説に「幸福のアラビア」と謳われたこの国がなぜ「幸福のアラビア」なのかを突き止めてゆきます。

 著者は一緒に断食もしますし、イスラム教に「改宗」を街角で誘われたりします。バスの隣の席のおじいさんから「アッラーを信じねば地獄の炎に焼かれるのじゃぞ」と脅されるのですが「そのうち改宗するよ、インシャラー(アラーのみ心のままに)」と逃げ口上を打ってバスから逃れます。でも改宗した振りをしてモスクに立ち入ったりはしません。文化を尊重しつつ、自分を守る、そんな雰囲気に好感が持てます。

 社会調査とは「かく乱」です。
 調査は客観的視点で行なう「装い」を持ちながら、大規模な社会干渉でもあるのです。視点に現象が支配されることは一次的に起こり得ます。
 その地域を愛し溶け込みつつゆっくりと調査をすることが、結果としてかく乱を最小限にするのだと思います。(著者は対外援助のための調査活動でイエメンに入っている)

 イスラムの信仰の固いイエメンの人たちの習俗にも詳しいですが、政治状況が大きく変化する中で(この本は南北イエメンが統一されたばかりの状況を受けて書かれているが経済成長も含めてその後の変化は大きいと思われる)情報が最新である保証はないでしょう。でも習俗や歴史などについては十分に価値のある内容が記されていると思います。

 この国の始祖はソロモンの子を身ごもったシヴァの女王だそうです。
 まさに世界最古の由緒正しい国々の中のひとつです。
 民族は今でもその神話を誇り高い歴史の扉拍子にしつつ、イエメンの働き手たちは「幸福のアラビア」と呼ばれるに値する豊かな緑を作る段々畑を耕してコーヒーなどを造っていることでしょう。

出版年の古さに比して在庫がまだありました。

イエメン もうひとつのアラビア (アジアを見る眼)

イエメン もうひとつのアラビア (アジアを見る眼)

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
佐藤 寛
1957年生まれ。専門は開発社会学、地域研究(イエメン)。1981年アジア経済研究所入所(動向分析部)。1988~89年在イエメン日本国大使館専門調査員(技術協力担当)。1991~92年国立民族学博物館外来研究員。1998~99年イエメン共和国保健大臣アドバイザー。2003年~アジア経済研究所開発研究センター主任研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※現在はアジア経済研究所開発研究センターの参事職にご在職のようです。