犯罪学入門

 もう来ました。寒い、寒い冬が。
 イヤ、季刊更新と化していますな(遠い目

 犯罪学入門、講談社現代新書でございます。
 著者は鮎川潤先生。私、初見の著者です。刑事政策の先生ですね。

 内容は、丁寧というか、手堅いです。
 実例重視で、新奇を追わず、典型例で興味深いものを厚く説明する感があります。
 最初の例で、あの連続殺人元消防士「K(K田)」の生い立ち、初犯から逮捕までを例出して、時代背景まで含めてこの犯罪が何故出現し、凶悪犯罪を未然に防ぐヒントはどこから得られるのかを浮き彫りにしてゆきます。

 この本には、時事的な平版さを排する、哲学があります。軸になっているのは社会防衛と加害者人権の調和なのですが、被害者人権を重視する近来の犯罪事情をいたずらに「加害者対被害者人権」の図式にしないようにぎりぎりまで悩んでみせるだけの知的な余裕というか啓蒙書にありがちな一般的解説では終わらせたくないという「願い」がある感じがします。この本が鮎川先生の教えている学生さんむけの「教材」起源なのだとしたらしっくりくる感じがします。
 つまり、犯罪学に対して本当の啓蒙、「蒙を啓きたい」「気持ち」が伝わってきます。

 犯罪者の更正を視座にいれることが何故大切なのか。それは単に「社会防衛」のためなのか、薬物事犯を非犯罪化する「結果無価値」的な刑法学説から生まれる考えは何故現実社会で通底しきってゆかないのか、また、同じく反規範性を処罰において重視してゆく考えが処罰感情の現実には通底していっても、社会政策としてはリアリティーに乏しいのか・・・。

 考えさせてくれる本が良著なのだとすれば、この本は興味深い啓蒙的知識をかいつまんで与えてくれ、かつ考えさせてくれる実によい本だと言えるでしょう。

 

犯罪学入門 (講談社現代新書)

犯罪学入門 (講談社現代新書)