つっこみ力

 「反社会学講座」で「常識」を滅多切りにして笑い飛ばしたパオロ・マッツァリーノ氏の怪作またも登場。(べたな紹介)

 おもしろいです。反社会学講座よりもボルテージが上がった感があります。二番煎じ?いえいえ、そんなことはありません。本書は抽象的で思弁的な「反社会学」と言う命題を超えて「つっこみ力」なる概念を定義し、「つっこみ」と言う方法論で「批判」「論理」「メディアリテラシー(!)」などを超えると称しているのが痛快です。
 ちなみにギャグ6割まじめ4割で存外まじめで有用です。おもしろさの方が有用性を上回っていますが。

 出色なのは、おぼれている人間を発見したライフセイバーが海の家で寄り合いをはじめて効率的かつ公平な水難救助のあり方を議論し始めたら誰でも怒るだろう、と言う旨の超強烈な皮肉です。著者は貧困格差の問題を原因追及よりも結果でやるべきだと主張しているのです。
 格差の問題は所得の問題より資産の問題の方がよほど深刻だというのもはて、と我に返れば誠にもっともです。盲点は実は見えている、と言うべきか。

 この本には新聞の学者の書評はパワーダウンした、反社会学講座の繰り返しなどとやや難癖をつけていますが、巻末の引用文献リストを見ればいかに著者が「まじめ」にこの本を書いたかが分かります。いくつか当たってみたい本も発見できてうれしいです。

 学問の権威主義の問題について巻頭で決定的な断を下していて痛快です。

 読んでみてください。お笑い本としてだけで十分元が取れますが、それ以上の付加価値が大変大きい本です。ただ、「おもしろすぎる」のでお笑い部分の価値がやや多めと思いました。
 反社会学講座と併せて読むとおすすめです

つっこみ力 (ちくま新書 645)

つっこみ力 (ちくま新書 645)

反社会学講座

反社会学講座

著者のサイト「スタンダード 反社会学講座
http://mazzan.at.infoseek.co.jp/

 この人何者なんだろう…。