昭和憲兵史

 みすず書房。大谷敬二郎という旧軍の憲兵大佐の著書です。
 この人の文庫「憲兵」が面白かったので思いきって古本屋で買いました。絶版してるので仕方がないのですが、4000円くらいしたので財布にアイタタです。amazonをみると12000円もしているのでそりゃ高すぎだろうという感じです。
 まず約800ページ分厚さに驚きます。そして2段組。こんな本、ひまを見て読んでたらいつまでかかるのかと。実際2ヶ月くらいかかりましたが。
 憲兵の尋問調書や、左右の思想弾圧の記録などもあり、興味深い内容です。弾圧された側の主張と比較して読むと「はあなるほど」と分ることもあります。その意味でも興味深い内容でした。
 著者の執筆動機は憲兵の本務とは「監軍護国」即ち軍事警察を主にした非法をただす業務であって、政治警察は本務ではない、戦後につくられた虚妄と、一部陸軍首脳、特に東条内閣時に憲兵力の濫用が国民をして憲兵をそう思わせるに至った、全く残念だ、と言うことをエピソード混じりに繰り返し主張するわけです。
 主張そのものよりも、エピソードのほうが面白いです。ただ主張としては業務をしていた人の無念そのものはよく伝わります。
 著者の大谷氏は政治警察の定義を縮小しすぎていて、少し虫がよすぎる感もあります。一般国民の不作為による戦時非協力行為まで取り締まればまこう違う事なき政治警察と言えましょう。思想警察業務もしっかりしていた事と会わせて考えれば当然と言えます。
 「好ましいとは思わないが」「やや任務外の嫌いはあるが」などと言いながら、憲兵力を業務外に(即ち政治的な差配のもと)用いていたことも著者自身が告白しています。
 
 この本をぼんやりと読み続けて得た教訓は「やはり憲兵は強大で恐ろしい存在だった」と言うものでした。
 高度武装した軍事警察が同時に一般警察権まで持つというのは、大変なことなのだと言うことを痛感しました。

 著者はもう亡くなられています(1976年死去)。しかし、1987年まで私の持っている判は刷られております。値段の高さからいってもそれなりに人気がある本と思われます。
 2・26事件の描写が面白いのと、憲兵調書までついているのでお得?なのかもしれません。

昭和憲兵史

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